02/27(その1)

最終日。男子フリーとエキシビション。
ずぅっと待っていたのに、始まってしまうとあっという間だ。とにかく、今日で最後。

プログラムと並んで、メディア・インフォメーションが売られていたので、そちらも購入。英語だけど、全選手の過去の戦績や今期のプログラム、また出身地や職業・コーチまでいろいろと細かく書かれていて、なかなかに面白い。初めて観る選手が多いだけに、こういうのはとっても嬉しいよ。

N杯では買えなかったので(最初は置いてなくて、売っていたときには売り場を通らなかった)、とても残念な思いをしたんだった。

友人たちと、しばらくページをめくる。競技の説明や採点方法まで書かれていた(でも、英語。くぅ〜^^;)。後で辞書引きながら、ゆっくり読もうっと。

開始時間は30分も繰り上がっていた。
何か事情は有るのだろうが、これはあんまりだ。大概の人は、チケットに明記された時間にあわせてやってくるだろう。貼り紙はしてあったが、今日だけ来る人も大勢いるはず。
おまけに6分間のウォーミングアップは、さらにその前から始められている。実質40分近くもの早いスタートだ。

案の定、第一グループの演技が始まった後からも、次々とお客さんが入ってくる。
主催側は、下位の選手をないがしろにしているつもりはないと言うだろうが、あまりにも気の毒だった。時間通りに来たら遅刻ということになってしまったお客にも。

また逆に、お客の側も、せめて今やっている演技が終わるまで待ってから席に着くとか。。。ほんとに余計なお世話だが、じりじりしてしまう。

まぁ、それだけ今日は人が入っているということ。昨日はひたすら「上を写さないでぇ〜」とテレビカメラにまで必死に念を送ったものだが(^^;、さすがに今日は違った。満席とはいかないけれど、スタンドまでそれなりに埋まっている。

逆に、昨日はまるで気にならなかったカメラのフラッシュが、やたらと目についた。対岸で光ると、とんでもなく眩しい。これが選手の目に入ったら・・・。光るたびに「え〜いやめい!」と一人で呟いていたが、どうにもならない。再三アナウンスも入っているのに。気付いていないのか、気にしていないのか。。。

もし自分のまわりで光ったらやんわりと教えてあげよう、と身構えていたが、たまたま近くにはフラッシュを焚く人はいなかった。やや意気込みすぎて拍子抜け(笑/だってちょっと勇気がいるじゃない)、ありがたいことでした。


ところで、第1グループ。
メキシコの三選手、韓国の二選手がここにかたまっていた。もう一人はオーストラリアの。これ自体はもう仕方の無いことだけど、この競技において発展途上に有る国の二番手、三番手の選手が、世界のレベルに直接触れる、というのはとってもいい刺激になるんじゃないか、などと勝手に思う。

メキシコのDavid del Pozo選手の使った曲が「仮面の男」! 場内ややざわめく。う〜ん、ごめん、、、どうしても(^^;。
また同じくメキシコのRicardo Olavarrieta Navarro選手(この人だけはベテラン! って感じだった)、演技終了後、花を渡そうと数人の女の子がフェンスに走り寄って来ていた。おぉ〜、ファンがいるのか(^^)。にこやかにHug & Kiss。

それを見ていた、前列の年輩の夫婦連れ(?)の会話「あれが目当てや」「そやね、男前やもん」・・・を〜いをぃをぃヾ(--;。
その後もそのお二方は、ごく一般のフィギュアファンとは違う観点からの感想をかわしあっていた。。。

第2グループ。
直樹くんが混じっている。このグループの中にあってはひときわ目を引く。その意味では、カナダのサンデューくんもそうかも。

もしかしたら、アマチュア最後の競技会になるかもしれない。どうか、本人の満足のいく演技で飾ってほしい。
右隣に座っていた女の子、聞けば直樹くんのファンだと言う。ぎゅうっと両手を握り締めている。その気持ち、痛いほどよくわかるよ。

演技終了後、その子は花を投げに飛び出していった。

花か。。。
そういえば、なぁんにも考えてなかった。会場でもわりにきれいな花束を売っていて、その場でラッピングもしてくれている。
もし、武史くんがEXに出るなら、「お疲れさま」の気持ちで投げてもいいかも。

漫然とそんなことを考えていたら、目の前にぽとり。スタンド席から届かなかった花だ。拾おうと身をかがめたら、頭にこつん。見上げると、口に手をあてている女の子たち。まとめて拾って、リンクに投げ入れて来た。
男子への花投げは、もしもするなら武史くんだけ、と決めてるんだけど、こんなイレギュラーは良しでしょう。直樹くんだしね。

左隣の女の子は、トッドファンとのこと。手作りの、大きな星条旗を持って来ていた。
星がひとつひとつ、丁寧にパッチワークのように縫い込まれている。

ファンって、こうしてそれぞれの思いを、その人なりのやり方であらわそうとしてるんだな。
今日のわたしは祈ること、そしてしっかり見届けること、か。。。

このグループでは韓国のKyu-Hyun Leeくんがやたら印象に残った。ビニールっぽいつやつやの白の衣装。音楽の途中に“キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”と何故かチャイムが鳴ったり(なんでなんだぁ〜^^;。後で曲名を見たらSchoolってのも入ってるし)。

第3グループ。
カナダのBenくん。メイプルリーフが振られる。
アメリカの二選手、演技はやはり後番手なんだな、という感じ。それより応援団が凄かったわ〜(^^;。中国もそうだったけど、既に出番を終えた選手がかたまって大声援を送っている。前述の年輩女性が眉をひそめて見上げる。いいじゃないのよ、もっともっとお客も盛り上がらないと! 神妙な顔で鑑賞するモノじゃないわ(と思うんだけど)。

というところで岳斗くん登場。黄色い声援がひときわ高くなる。
そしてのっけから4+3! 成功率高いなぁ、と思ってたら次のサルコウで手をつく。全日本と似たような展開だぁ。。。
ステップの出だしでこけちゃったり(エッジが軌跡にひっかかったのかな)してたけど、後半、以前に比べてバテが表れなくなったように感じた。ラストもしっかりジャンプとスピンを決めて。
いやそれにしても、毎度のことながら演技終了後の民族大移動は凄まじい(^^;。まじで地響きします。

このグループのラストは、マリニナさんとの結婚話がやたらクローズアップされたロマンくん。N杯のときよりかなり安定感が増したように思う。
二人のコーチが亡くなって以来、互いにコーチをしあうという環境。GSシリーズの賞金も、国外での練習のため等に使うと聞いたことがある。そんな厳しい中から生まれてくる強さもある。。。



最終グループ。いよいよだ。
ぐっと息をのむ。座り直す。見据えるようにリンクに目をやる。
手には日の丸の小旗。N杯のときから、日本選手には必ず振って来たもの。

勢い良く選手が飛び出してくる。
すぐにわかる、スピードも迫力も、今までとは格が違う。
エルヴィス、トッド。李くん、ミン・ジャン、アンソニー。その中に混じって、武史くんがいる。

もしや、と思いつつ黒と赤の衣装を探す。やっぱり・・・新しいコスチュームだ。
最初ちょっとびっくりしたけど、これはこれで非常にリンク映えして良いんじゃない? 何より、意気込みを感じる。これは衣装とは関係ないか(笑)。

すうっ、と深呼吸。
『起き上がることも出来ない状態から、よくここまで戻った』
頭をぐるぐる回る言葉。頑張れ、頑張れ。今日、自分自身に勝って。

第1滑走、ミン・ジャン選手。
若そうに見えるが、実は94年のWorldに出ている。むしろ息の長い選手だ。
しっかし・・・跳ぶねぇ〜。。。

2番目はアンソニー。
彼を見ると、どうしても「World、オーストラリアのはずだったのに…」と思ってしまう。昨シーズン、だからこその頑張りもあっただろうに。
ジャンプミスあり。でも違うところで観せてくれます。

SPトップのトッド。
左隣の女の子が、星条旗を広げて声援を送っている。
しかし開けてびっくり、トリプル予定のジャンプがたぶん半分以上(?)ダブルに。こんなことってあるんだ・・・。
終盤、とにかく3アクセルのコンビに持っていくところはさすが。

李くん。
メディア・インフォメーションによると、振り付け師はLea Ann Miller、武史くんと同じだ。それでもまるで違った雰囲気になるということは、それぞれ自分の観せ方をしっかり持ってるってことで。
李くんの雰囲気も独特で好きだ。しかし衣装が・・・誰かに似てる(^^;。

彼に限らず中国選手、衣装をもっと音楽などと総合的に考えたら、ちぐはぐな印象は減るのに。。。そうなったらますます、恐くなるけど。もう全然、中国はSleeping Lionなんかじゃない(あ、古すぎ?)。

そして、武史くんだ。
今までで一番大きな、会場中の声援を受けて。
わたしも叫んでいた。「たけし!!」それしか、できないから。

もう耳慣れた、風と鈴の音。緊迫のスタート。ひとつひとつのポーズに、気合いがこもる。
手がすぅっと伸びて、最初のジャンプ、3アクセル。ステップアウト、単発。
そして次は、今日は・・・、「あっ!」一瞬迷ったかのように、空中で回転が止まる。前向きでのランディング。4トゥに挑戦したんだ。まだはじまったばかりよ。両手をきつく握る。
3サルコウ、OK、決まった! これからだ。

『練習せずにはいられなかった』『やめろと言われてもやめられなかった』
演技を見つめている間中、頭のどこかで言葉が錯綜してる。
3ルッツも成功、ステップの振り付けが変わった。

スローパート、彼の場合ただしなやかに踊る、というより何か大切な思いを伝えたい、そんな雰囲気が全面に出る。指先も、身体全体の表情も、すべてつながるのは、その“感じ”。昨シーズンの「仮面の男」も、そうだった。もちろんわたしがそう思う、ということでしかないのだけど。

3アクセル+3トゥ、スピンが入って3ループ。
リズムが変わる。大きな手拍子。会場全体が、彼を押している。
ステップから3フリップ、そして熱いイーグル。

さっきから、涙が止まらなかった。
やった、よくやったよ。
最初のジャンプミスの意味。でも、よくぞ後半立て直した。
痛いほど力をこめて手を叩く。
胸いっぱいにこみあげてくる。ほんとに、ほんとに、よくやったよ。。。

Kiss & Cry へ向かう途中、次の滑走者であるエルヴィスと握手をかわしていた。
わたしの席からは、二人の背中、そして手をお互い差し出したところまでしか見えなかった。「あ、握手してるね・・・」誰に言うとも無く、つぶやいた。

T 5.3 5.6 5.4 5.5 5.4 5.6 5.6 5.5 5.2
P 5.7 5.6 5.5 5.8 5.7 5.8 5.6 5.6 5.7

この時点で、表彰台はなくなった。
本当によくやったと思う一方で、それはものすごく悔しい。やっぱり、台の真ん中に立って、心底ハッピーな笑顔が見たかった。

もう「頑張ったね」だけではすまされないところにいる、彼。
でも、そのことを一番わかっているのは、他でも無い、武史くん自身だろう。
そして、誰よりも悔しいのも。

『歩けと言われているのに走っちゃった、って感じですかね』
その意味をわかって、噛み締めて、必ずまた戻ってくる。
そう信じられるほど、また彼は大きく、強くなったんだ。。。

最終滑走、エルヴィス。
四大陸選手権、競技すべてのラスト、大トリにふさわしい、もう何も言うことの出来ない、演技だった。
4回転ジャンプは入らなかった。しかし、フィギュアはジャンプだけではないことを、まさに彼が、エルヴィスが教えてくれた。

見事な、逆転優勝。