−第69回 全日本選手権大会−
(00/12/08〜12/10/at Nagano Big Hat )

『最高でも一位、最低でも一位』。
シドニー五輪で柔道の田村亮子選手が語った言葉を、どうしてもだぶらせてしまう自分を叱り付けながら。
そんな莫迦で勝手な応援者の前で、彼は、強かった。


12/08

全日本が始まった。
今日はシンクロナイズドスケーティング、それからコンパルソリーダンスとペアのショート。

一度、ダンスのコンパルを観てみたいんだよな〜、などと思いながら荷造り。といっても鞄は先週旭川から帰ってきたままの状態。
なんとか荷物を軽くしたいが、昨年極寒の福岡パピオを体験しているだけに、どうしても防寒具を多めに入れてしまう。
まがりなりにもビッグハットはオリンピック会場だったところ、設備もそれなりのはずだ。
しかし、リンク内で寒い思いをするのは、何にも増して苦痛だからなぁ。。。

観念して鞄を詰め、ネットで結果確認・・・と。

武史くんSP第一滑走! の情報が飛び込んできた。
は? はい〜〜〜〜〜!!?

なんとまぁ。またですか。
最近極端なんだよきみは〜(泣笑)。
しかも、その後届いたメールなどによると、自ら「一番を引く」宣言(?)をして、場内「一番!」「一番!」コールに沸く中、みごと一番を引き当てたらしい(^^;。
おう、ええ度胸や。やるじゃん! と安心しつつ、しかしそこまで自分を鼓舞する彼の心中を思い、胸が痛んだ。

しかし、それもこちらの勝手な感傷。
真正面から立ち向かってる彼の為に、精一杯の応援あるのみ!


12/09

東京駅にて、待ち合わせ。
長野着は10時20分頃。
昨年は朝早くから会場内に入っていられたのだけど、今年はどうだろう。その前の新横浜では、一旦外に出されたそうだし。このへんは毎年違うらしい。
前日から長野に入っている友達に、申し訳無いと思いながら車内で思いを巡らせる。

新聞もみな、優勝は本田、という書き方。そりゃ、順当に実力を考えたらそうなんだけど。。。優勝しか出来ない、これは心中相当きついだろうに。しかしそこで、勝って欲しい。
つくづく、ファンは、勝手だ。

路線バスは最初から諦め、タクシーで会場に向かう。
ビッグハットに着くと、もう既に列ができていた。
ぐるりと見渡せばそこここに見知ったお顔、つい1週間ぶりの人もいる(笑)。
ご挨拶だのお喋りだのしつつ、ふと見ると。

あ。
階段を降りてくるのは。

武史くんのお父上だった。
今季は行かない、と言っていた武史パパ。直前まで迷ってらした。
やっぱり来ちゃった・・・のですね(^-^)。「はい、来ちゃいました」。

武史くんはこのことを知らないという。
でも、リンク内からすぐにわかるはず。
きっと、心強く思うだろう。何故とはなく、心がほころぶ自分がいる。
うん。きっと大丈夫。

11時。開場。
席をとっておいてくれた友人がいる。本当にありがとう、朝早くから。
「プログラム買わなくていいの?」せいさんのお言葉。
とりあえず荷物を置いて、それから・・・と思ったら、部数が限られていて、しかもかなり少ないらしい。げ。それは困る。
慌てて購入。ピンバッジとセットで1000円。
滑走順の紙をもらって場内に入る。
中では、女子の練習がまだ続いていた。

ジャッジ席の真上に、どぉ〜んと貴賓席。まさに「ロイヤルボックス」。ほんとに箱だ(笑)。
その左右の席は今回すべて関係者用となっていて、一般席はジャッジと反対側かショートサイドのみだった。あ、二階席はあるけど。
しかし、座席数はけっこう少ない。ほんとにここで、来季のWorld やるんだろうか。狭すぎないか? リンクサイド席をつくるとしても、いったい何人入れるんだろ。チケット争奪戦が・・・考えたくない(--;。実際のところ、どうなんでしょう??

などと、漫然と考えてる場合ではない。今日はまず、大切な使命があるのだ。
NHK杯で預かった、『フラッシュはやめよう!』の横断幕。これを貼らねば。
しかし、つくったことも貼ったことも無い横断幕ビギナーのわたし、しばし他の皆さまの様子を伺う(笑)。

応援用の横断幕は、選手によく見える位置に。しかしこれは場内のお客さん向けだから・・・。ぐるりと見渡して、ショートサイドの上側に決めた。
けいこさんに手伝ってもらって、何とか完了。しかし、紐が緩みはしないか、妙に気になる(心配性^^;)。
結局、ガムテープをお借りして、紐部分に補強。はーこさん、感謝です(^^)。

ファンファーレが鳴る。いよいよ競技開始。
第一グループのウォーミングアップ。扉に手をかけ、武史くん一番に出てくるつもりだ。
もう〜、いきなり私的真打ち登場じゃないの!(ぶるぶる)。
茂木直治くんが棄権ということで、第一グループは5人。
ど、どうだろどうだろどうだろ。き、緊張してきた。。。

けっこう落ち着いてる風には見える。
しかも、軽々と4+3! しかし、しかしだ・・・くぅ。だいじょぶだよね?
リンクサイドには、今日もしっかりダグコーチの姿が。
そこにいるというだけで、心がほっとする。どうぞ、しっかり見守ってあげてください。

「いいの、もうわたしこれは4回転が決まれば、コンビネーションじゃなくても」「ダメだよ、それじゃ減点になっちゃう」「あ、そっか」「3+3じゃ駄目なの?」「ん〜、やっぱし4・・・入らないと・・・」「入れたいでしょ、そこは、武しゃんだし」妙にとぼけた会話を交わしながら、しかし心中そんなもんではない。

「練習時間、あと1分です」。
アナウンスに、心臓が跳ねあがる。なんでもう、武史くんが始まっちゃうの。
いやちょっと待て、落ち着いて。誰かが一番に滑らなければならないのだから、それがたまたま彼だっただけ。
いちいちそんなことで心を揺らしてどうする。応援する側が、ガタガタしてたらいけない。いつも言ってることじゃないの、競技はここから始まるのだから。

そう、競技は武史くんから始まる。激闘男子シングルの幕開けにふさわしい。

他選手がリンクサイドにあがる。
中央で大きく息をつき、ポーズをとる。
軽快な「ドン・キホーテ」が始まる。。。


今季、この軽やかで楽しいプログラムが大好きになった。
何でだろう、一度も完璧な「ドン・キホーテ」は観ていないのに。
息つく間もなくステップが詰め込まれたような、見た目以上に遥かに難しいだろうこのプログラムは、観ていて何故だか幸せになれる。

昨シーズンの「バイオリン・コンチェルト」も大好きだったけど。その前の「Two Minutes Warning」も大好きだったけど。
なんでだろうなぁ。
余裕が持てるようになってきたら、きっと笑顔ばしばしの、とろけるようなプログラムになりそう。そんなことを予感して。

渾身の思いを込めて氷上を見つめ、両手を握りしめて。いけ、4トゥ! 手をつく。あちゃ。セカンドにとりあえず一回転。これが精一杯か。

しかしジャンプだけではない、他のエレメンツを観てよ。
ダンス・バレエのレッスンからも培った、その身のこなしや足捌きを。
そしてきれいなスプレッド・イーグルから3アクセル。これさえ決まれば! わたしは今日、それを観に来たのよ〜と、若干混乱した頭で見守る。決まった!

すうっと流れて、スピン。
よし。よし。大丈夫。
N杯でタイミングが合わずに転倒した3ルッツ、今日はOK!

後は、終盤に向けて加速していくステップ、スピン、フィニッシュ。
ジャン! という曲の終わりと共に膝をついたポーズ、そのまま流れて。
前に差し出した右手を軽く握って、おろす。それは「よし」なのか「あ〜、ちくしょ」なのか、背中からはわからない。

こちらを向いた表情は、それなりにしっかりした顔だと思えた。昨年のようなガッツポーズは無いけれど。

わたし、ほんとにこのプログラム、大好きだ!

「ただいま採点基準を・・・」のアナウンス。
これで一体何点が出るのか。
文句無し、パーフェクトな演技だったら何番滑走だろうが関係無さそうだが。。。コンビを落としたことがどれくらい響くのか、まして今後の採点の基準になるわけだから。

出た。

E 5.3 5.4 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3
P 5.7 5.7 5.7 5.8 5.8 5.7 5.7 5.7 5.7

ん〜〜〜、エレメンツはけっこう、辛目かな。
上位候補選手がノーミスだったら、充分上回る可能性がある。ともかく、ここからスタート(心中穏やかではないのだが!)。
プレゼンはそれなり、5.8も出た。
さて。
これから一体、どういう展開になるのか。






ものすごい展開になった。
全日本の採点がこんなに厳しかったことって、かつてあるんだろうか(失礼、過去データの記憶はまったく無しに書いてます。ただ少なくとも、去年よりは遥かに厳しい)。
まず5点台が出ない、出ない。
たとえ目立ったミスが無くても、エレメンツの内容で基礎点は決まってしまうから。

4点台が当たり前、3点台も珍しくない。おまけに2点台まで複数人数に出るなんて。
おいおいおい〜、どうなるんだよ。
ふと昨シーズンの四大陸を思い出す。
男子SPの第一滑走が、中国の李運飛選手。4回転も織り交ぜ、ジャンプに微塵の乱れも無かったこの選手が基準になったためか。
シニアの国際大会で初めて、わたしは1点台、というものを見たのだった。

もちろん、今日はそれほどではないにしても。

第2グループ、中庭健介くん、田村岳斗くんと続いていた。
ある意味、ふたりにとってもチャンス。しかし。

全日本にも魔物がいるか。
SPを滑る選手の緊張はどれ程のものだろう。観ているだけのわたしでさえ、こんなに苦しいのだから。
岳斗くん、4トゥで手をつき、3アクセルで転倒。3ルッツは成功。

第3グループ。
関徳武(めぐむ)くんが、このグループの最初。
「ファウスト」は昨シーズンも観ている。つくづく、身体の線がきれいな選手だ。
密かに応援しているのだが・・・う〜ん、彼本来の出来ではない。
長身で、手足も長い。技が決まれば、素晴らしく映えるだろうに。。。残念。

昨年は最終グループに残った岩本英嗣くん。
しかし今日は・・・嗚呼。
竹内洋輔くん。「禿山の一夜」で力の入ったSPだが・・・ファーストジャンプで転倒(確か。違ってたらごめんなさい)。

うーんうーんうーん。
煮え切らない。
何だろう、いろんな思いがぐちゃぐちゃに混じって、心に波風が立つ。乱れまくってる。

そんな中で、このグループ最後、18番滑走の石垣潤くん。
「シニアデビュー当時の武史くんを彷彿とさせる」。そんな評が気になっていたのだが・・・。
納得!!(にっこり)

あぁ〜、そう〜よねぇ〜。そうそう。こんな感じこんな感じ(当の石垣くんには失礼かもしれないが^^;)。
その雰囲気、というか、身体の線というか初々しさというか。。。
しかし現在彼は高校3年生。今の武しゃんと、それほど歳が離れているわけではないのだ。背も高いし。
なのにこの既視感は・・・不思議ね。
ともかく、この演技でやや心が和らいだのは確か。おまけに偶然にも音楽が「Swing Kids」であった。使われたパートは違っていたけど。

やっとここで整氷。
グループが5つあるから仕方ないとはいえ、最後のほうはかなりガサガサの氷。ちょっと選手が気の毒だったかな。。。

外へ出て、伸び。ぶんぶんと身体を動かして。
通路には選手や関係者もうろうろ入り乱れていて、この辺りが全日本!
イヤホンで音楽を聴きながら、走ってアップしている選手もいる。邪魔しないように、気を付けながら。

気が付いたらお腹がすいていた。
ロビー(というより、入り口前の通路)では、いろんなものを売っている。
あったかいコーヒーや飲み物、ポップコーンだのおにぎりだの、おまけに長野名物まであって、なんだかドライブインみたい(笑)。
N杯でふられまくった肉まん、今日は食べるぞ! ・・・250円もした・・・でも、美味しい! コンビニ肉まんとは違う、これお値打ちかも。美味しいよ〜(涙)。

しかし、そうやって美味しい美味しいといいながら、心の中ではこの後の展開を考えている。心が全然静まらない。
ちょうど出会ったメグマニアズの皆さんに、思わず励ましてもらう始末。
「だいじょうぶですよ!」ありがとう、ありがとう、ごめんね。みんな優しい。
ついたった今、膝を冷やしているメグくんを見かけたばかりだったのに。どんなにか心配だろうに。ごめんなさい。
わたしはまだまだ、修行が足りない(去年も同じことを言ったような)。

第4グループ。
今季、ラリック杯に出場した岡崎真くんが22番目に出てくる。そして、彼がやってくれた。
3アクセル+2トゥ、3ルッツ、2アクセル。今の時代の最高難度ではないけれど、ミスが目立った上位候補陣の中で、きっちり確実にエレメンツを決める。客席にも伝わる集中力。
音楽は「Robin Hood」。身体もぐっと絞ってきた感じだ。お見事。

生年月日から計算したら、彼は今24歳?
若年化が進むシングル競技者の中で、これはたいしたものだと思う。
ここで初めて。
エレメンツで武史くんより上の点数がついた。

ショートプログラムって、技術点が高いほうが上なんだっけ。
しかしプレゼンテーションにはかなりの開きがある(こっちは武史くんのほうが上)。
くぅ〜、どっちなんだぁ〜。
周囲の友達は、皆「武史くんがまだ上だよ」と言う。たぶん、そうだと思うんだけど。。。

最終グループ。トップは田中総司くん。
おそらく、彼次第で決まる――――あ。ジャンプがすっぽ抜けた・・・。


最終滑走者の演技が終わって。
軽い脱力感を覚えながらも、斜め上方、パソコン部隊の陣取る席へと向かう。
“パソコン部隊”・・・勝手に呼んでしまっているが、リアルタイムで結果をそれぞれホームページに up している皆さま方のこと(すみませぬ^^;)。

何しろ場内に結果は表示されないので、ここでデータを見せていただくのが一番正確で早いのだ。
競技の最中、長久保コーチ&御大・佐野稔氏が、そのすぐ上の席に座ってじっと覗き込んでいたのを知っている。
関係者や選手が、代わる代わる来てはわやわやと覗き込む。
この一角の人だかりは、ひと競技終わるごとの恒例となっていた(何せプリンタまであるのだから!)。

t さんが上から結果を読み上げる。
「本田−岡崎−竹内−田中−田村−中庭−・・・・・・」
へたへたへた。一気に力が抜けた。
一位通過だ・・・。


場内点描。
武史くんが滑り終わってしばらくすると、関係者席にダグ・リーコーチが現れた。
しばらく立ってじっと演技を観ている。
ダグコーチは、開催中ほんとに熱心に、他選手の演技を観ていた。

しばらくして、武史くんも現れた。
コーチと、他関係者の方と、けっこう長時間話している模様。
一段落ついて。。。と!

武史くん、すたすたと通路を歩いて、一般席のほうに向かってくる。
彼の歩き方は独特ですぐわかる。
背筋を伸ばして、頭をぐっとあげて、両手を大きく振って大またで。リズムをとっているよう。“とてとてとて”との擬音を奉ったのは m さん(^^)。

ぐるっと回って、座席後方。武史パパの隣に腰を下ろした。
はあっ。今後ろを振り返っちゃいけない。心がほんわりしてきた。なんだか、泣けてきた。良かった――。

男子が終わって整氷時間。
今度こそ、落ち着いて見て回る。
スケートグッズを売っている机もある。そこで発見、Stars on Ice カレンダー!!
渋谷のタワーレコードでフラれたやつだ。迷わず購入。もうひとつ、スケーターズ・カレンダーというのがあって、こちらはエルヴィス兄さんが表紙。

ほぉ〜、武しゃんいないかしら、とめくっていたら、「うおー、○○こんなところにいる」。え、と隣を見上げると、ひえぇっ! 男子選手の一群であった。
こ、こんなに接近遭遇してて良いのか。焦る。
エルヴィスに誰かが似ているのか、しきりに○○こんなところで、と笑っている。
おまけに、あろうことか今度は隣にメグくんがぁ! 硬直。

顔が固まったまま、しずしずと後ずさり、くるりときびすを返して平和な方向へ。
笑わば笑え、わたしはそういう性格だ!(大笑)

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